面白い話があるんだよ
「そういえば、面白い話があるんだよ。」
唐突に彼は言った。でも流れの中ではごく自然だったかもしれない。
「オレさ、野球部のキャプテンだったんだよ。」
どうやら彼は小学4年生の時に、地元の少年野球チームに入ったらしい。理由は「楽しそうだし、みんなが入ってるから」。小学生だったら、みんながやっていることは正義だ。正当な理由だと思う。当時はまだJリーグも開幕していなかったから、スポーツといえば野球くらいしか選択肢がなかったこともあるだろう。
到底野球と結びつかない彼の発言は興味を引いた。楽しかったかどうか、訊いてみる。
「それがやっぱりつまらなかったんだよ。みんな本気なんだ。」
何人かで集まって野球をしたことはあった彼は、その時はすごく楽しかったのだそうだ。ただ、野球部に入った途端につまらなくなったと。真夏の練習の時はお腹が痛くなってよくサボっていたので「また、お腹痛い病だ」という陰口も叩かれていた。それがなんでまたキャプテンになったんだろう?
「ヘタだったから」彼は言う。
あまりのヘタさっぷりにコーチ陣も頭を悩まし、低学年チームのキャプテンに抜擢するという苦肉の策を取ることにしたらしい。結果、彼は1年間キャプテンを務めることになる。そして辛くなり、6年生に上がる頃には野球部を辞める。
勝負事が苦手だという。中学、高校といくつかの部活に入ったがどれも途中で辞めた。そこで彼はひとつの結論に到達する。
『スポーツは楽しくやるものだ。本気でやるものではない。』
「異論は認める」「うん。異論はあるな」「でも、それがひとつの骨子になってるんだ」「わかる気はする」
その結論は、仕事や人間関係にも当てはまっているそうで、それはめんどくさくないか?と訊くとやはり、そのようだった。
結局、何事にも本気になれないのかもしれない、と彼は言った。